Pray for… at Antwerpen

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アントワープの朝焼け。
ホテルの空調設備は古くてほぼ壊れており、暑いか寒いかの調整しかできなかった。錆びついて重く開けにくい窓にはじめは絶望したけれど(webの写真と全然違う…)、明け方にふと目を醒ますと美しく朝日に染まる普段着の街並み。

ベルギーはオランダとは隣の国だけど、治安や経済力、街を普段歩く人たちの空気感、建物の修繕度合い、こんなに違うのかと考えさせられることが多々ある。美しい街ではあるけれど、ちょっと気を張らないといけない気配を感じることも多い。

 

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良く言えばレトロ、な内装や、ゴットン・ゴトンという、およそスムーズな乗り心地でない電車に揺られて着く「世界一美しい駅舎」と呼ばれるアントワープ中央駅。
ぐんと広い駅だけれど、中央ホールから離れるとまだ工事中やテナントが入っていないスペースが目立つようになり、人影もまばらになる。

チケット販売機の前には若者が待機し、「僕たちの友達がさっき財布を盗まれた。彼女は家に帰れなくて困っているんだ、どうにか(お金で)助けてくれないか?」と通り過ぎる人へかたっぱしから声をかける。それも同じ手口であちこちに。

今はもう慣れてしまったものの、こうしてツーリストにフォーカスし金銭を乞う若者を見かけると、外から見てどんなに美しい街に見えても決して豊かではない国だと実感する瞬間でもある。

 

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空きテナントがいくつも連なる街並みは観光エリアとほんの少しの距離。
ファッションの街として発信をしたり、ギルドハウスなど華やかなイメージのある国も、素顔はいつも前へ進むことに必死だ。
ヨーロッパは気軽に国境をまたげるし、地球で見た場合国境はない って言うけれど
いろいろな国を歩き、いろいろな国の人と話をするたびにやはり「国」を感じることはふとした瞬間に訪れる。

島国の日本で育った私は、ヨーロッパを憧れや華やかさの一面でしか知らない遠い世界だと思っていた。心が震えるほどの美しい一面も、ときおり感じる哀しみの過去が生きていることも、実際にその地の風を感じないと知らなかったこと。

全て含めて、世界は美しい。
近頃増えている、不穏なニュースに心を痛めては遠い地の誰かを想うこと。美しい朝焼けが誰にとっても希望の朝として迎えられますように。

 

 

From F.G.S.W. April 27, 2017

 

Nieuw Havenhuis by Zaha Hadid

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2016年3月31日。

彼女が旅立つなんて、誰が信じたことだろう。

 

建築家 ザハ・ハディド。彼女の名前が地名として残った場所が、アントワープにある。
記憶に近いのは、もしかすると日本に生まれるかもしれなかった彼女の幻の競技場。美しい建築案は世界に、そして私にもひとときの夢を与えた。

メディアの表現によってひとり歩きをする情報や改正案の報道が交錯しながら、建築への愛を持ち携わる身としてはときおり胸が苦しくなるときもあった。どうか彼女の建築が彼女らしさを持ったままに完成するようにと、ただ祈ることしかできなかったけれど。

それでも彼女はいつも真摯な言葉で、ときに控えめに、芯はぶれずに、自身の思いを送り続けていた。もしも私が彼女の立場だったらここまで大人になれていただろうか。

 

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2016年9月、ベルギーはアントワープに彼女の手がけた港湾局が完成した。ちょうどダッチデザインウィークへ訪れる予定が決まると同時に、私はラップトップの検索窓でアントワープへの交通手段を調べていた。開催地のアントワープはオランダからも気軽に行き来ができる位置。完成したての建築をこの目で見てみたくて、そして彼女も訪れただろう街の風や光を感じたかった。

国境を気軽に移動できる場所に住んでいる恩恵はこんなとき、私に羽を与えてくれる。

 

アントワープへ向かうための乗り換え地では、オランダ国鉄からベルギー国鉄へと車両も変わり、隣同士にありながらも国の経済力の違いを感じるようになる。滑るように移動したオランダ国鉄から、ペーパークラフトのように角がある佇まいでごとん、ごとんと音をさせながら走るレトロな旅。線路で距離だけでなく、時代や歴史を紡いできたことが体験できるからヨーロッパの列車の旅は面白い。

 

 

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国境を越えると通り過ぎる駅のサインは色や書体が変わり、オランダからベルギーへ来たのだなと実感する。島国で、さらに北海道で育った私にはとても新鮮な感覚だ。

 

カメラを持っている髪の黒いアジア人を見て、とあるおじいさんが私に声をかけた。

「もうすぐとびきり素敵な景色が見えるよ。カメラの準備をお忘れなく。いいかい?」

話し慣れないらしい英語と母国語のオランダ語を混ぜながら、一生懸命説明をしてくれる。指をさしたその先に見えた建物は、まさに目指していた場所だった。

「そうそう私、あの建物を見に来たんだよ!」

おじいさんは驚き、笑いながら「そうなのか、君はいい目を持っているね!」と言った。
ついひと月前にできたばかりだけど、おじいさんほどの世代にとっても誇りある場所なのかもしれない。

 

 

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アントワープ中央駅は、大理石や鉄、ガラスで包まれた優美さと荘厳さで彩られ、世界一美しい駅舎と呼ばれている。装飾が施されたドームのある中央のホールに、さまざまな国を繋いで来た電車が到着するプラットフォーム。この駅に降りるのは2回目だけど、いつ見ても美しい。時間によってとろけるように差し込む光は、出会いと別れが交わる空間をよりスペシャルなものへと導いていくよう。 

 

向かう場所は「Zaha hadidplein」。
建物の完成とともに、ザハ・ハディドへのオマージュとして広場の名前に彼女の名が刻まれた。かつて消防署だった建物と、船のような、宝石のような佇まいの増築部で成り立っている。別名「ダイヤモンド・シティ」アントワープに彼女が残したダイヤモンドだ。

 

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観光地である旧市街とは少し離れているため、周辺は驚くほど静かで穏やかな場所。水面の光を受けながら、きらりきらりと輝くガラスによってひときわ存在感を放っている。

ここを訪れるために来たであろう人が、外から、近くから、何度も別の角度で見上げていた。対岸では釣り人が竿を振りながらこの未来的な建築を眺めている。過去と、今の日常と未来が同居する不思議な場所を歩きながら、顔に当たる冷たい風に背中を押されている気がした。
まだ何もここになかったとき、ザハもここに立ってこの景色や港の風を感じていたのだろうか。まだまだ世界には彼女が残すはずだった、美しく挑戦的な場所が眠っているはず。

永遠に愛される存在を忘れないように。
地名や建築に彼女は宿り、世界で、もちろんここでも彼女の帰りが待たれている。

 

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May Zaha hadid rest in peace.

 

Nieuw Havenhuis/ Port of Antwerp:
Zaha Hadidplein 1, 2030 Antwerp, Belgium

 

 

From F.G.S.W. April 10, 2017

見知らぬ土地で家を探すstory #1

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アムステルダムでいちばんの難関は「家を探すこと」と何人の人が嘆いていたことだろう。

 

慢性家不足のアムステルダムは、住む人の家が足りないにも関わらず、観光客用に民泊として貸し出す物件もあるためにいつも供給が不足しているのだそう。年々人口が増え続けていることもあり、家探しはいつも争奪戦。

 

「まともに住める家」+「住居登録ができる」という条件では、わたしのような外国人にとって不利になるのは確かなこと。ここアムステルダムでは、家は選ぶのではなく「自分で選ばれる立場」ということを忘れてはいけない。
現地に長く住んでいる人でさえ、みんな口を揃えて言うのだから。

 

はじめはとにかく住居登録ができる物件で…とネットワークの掲示板で見つかった、少し中心部から離れた郊外の家に住んでいた。リノベーションもしたばかりの、とても綺麗な物件。フラットメイトもとてもいい子ばかり、大家さんもともにかく面倒見が良く信頼できる人だった。アムステルダムに来た当初からいつも助けてもらって、(少し郊外にあることを除いては)本当に自分はなんてラッキーだったんだろう、何度も思っていた。

快適な家に住みながら、家探しには本当に苦労を重ね、数ヶ月ごとに引っ越しをしなければならない人や、住所登録ができる家が見つからないためにビザの申請に困っている人たちをたくさん見てきた。

 

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あれから季節を二つ越え、街を歩くたびにいつも思っていた。

 

「いつか壁を自分で好きな色に塗ったりできるような、セントラルの家に住みたいなあ」

 

人の心は欲ばりで、ひとつひとつ手に入れるたびに次のものが欲しくなる。ここに来た当初は、住んでみたい、もっと知りたい…と思う街に住めただけでも幸せだったはずなのに。いつのまにかこの街をもっと身近に感じたくなり、自分の暮らしを自分で好きなものへ近づけられるような、そんな次の夢を思い描くようになっていた。

 

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そのタイミングで、友人の一人が住んでいる家がオーナーによってリノベーションされるため、強制的に退去をしなければならないという。ということは、何がなんでも次の家を見つけなければいけない。その時の私には何かチャンスのような気がして、便乗して家を探すことに。

どうせなら、という気持ちと、すべてを欲張って家無しになるのは危険、という気持ちが入り混じりながら、冬を前に私たちの家探しがはじまった。

 

 

From F.G.S.W. March 31,2017

Serendipityと旅

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日々の暮らしは、小さなひらめきやときめくものを拾い集めてできた地図のようなもの。
振り返ればわたしは”Serendipity”に導かれてたくさんの幸せに出会ってきた。

 

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ベルリンに住んでいた頃、旅の途中で訪れたアムステルダム
オランダといえば「風車」と「チューリップ」のイメージしかなかったのに
歴史ある街の中に見える数々の”挑戦”と”革新”を感じる姿にすっかり惹かれ、
ひと目でこの街に住みたい!と心を動かされてしまった。
出会いはまさに”Serendipity

 

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旅 が流れる時間を楽しむものなら
日々の暮らしも私にとっては旅をしているようなもの。

いつの日も、どんな朝も ときめきに満ちた日々であるよう

小さな宝探しに余念がない自分でありたい。

海を越えて出会った偶然の出逢いは新たな地図の印になって
それがまた誰かを導き、誰かを幸せにできるように。

I’m grateful to everyone I’ve ever encountered on my never-ending journey.

 

 

From F.G.S.W. March 5, 2017